カルテット 第1話 感想

ウォーターメロンシュガーの日々

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カルテット 第1話 感想

「なにかが欠けているヤツが奏でるから音楽になるんだよね」。余命9か月と偽っていたピアニスト、ベンジャミンのこの言葉を引き継ぐようにして、四人は「カルテットドーナツ」ではなく「カルテットドーナツホール」と名乗り始める。このドラマ自体も、ドーナツの穴のような、なんらかの欠落が合わさってできたような作品だ。プレミアリーグオウンゴール10連発の動画や、別府「東北ではトマトに砂糖かけるって知ってましたか」一同「へー!(どうでもいー!)」とのやりとりとか、「道聞かれただけ」の女の子とキスをする家森(食えねーやつ)、巻真紀という名前(上の名前で呼んでいるつもりでも、自分は下の名前で呼んでいるのだろうか、という後ろめたさを呼ぶ人が常に負わなければならない)、巻さんの夫の平熱が7度2分だとか、巻さんの結婚指輪の入れ替え(左手から右手へ)などなど、無かったことにされそうな細かな機能不全が、このドラマを作り上げている。

舞台は、シーズンオフの軽井沢。その時点で、「軽井沢」=「避暑地」=「セレブ」みたいな図式から、登場人物たちは追い出されている。「夫がいなくなった」などの事情により、大手を振って通りを歩けるような状態(広告マンの妻、みたいな状態)から追い出されて、彼らは以前とは別の場所にたどりつく。しかも、以前の場所からエスケープしたからといって、堂々とオルタナティブな人生を歩めるわけでもない。「君の好きにしていいよ。君はきみらしく。」軽井沢に行く巻さんにむけたとされる夫のこの発言も、実は存在しなかった。四人は、曇り空を指して、天気が悪いとも、いや私は曇り空が好きなんだとも、はっきりと主張することはできない。小道をこわごわと歩いて、かれらは元いた場所から少しずつ、しかし決定的に外れていくしかない。その彷徨が、ふいに核心をつく瞬間もある。巻さんの小さな声が、ときに視聴者にすら聞き取れないように、このドラマは大文字の主張ではなく、非公式な声を重要視する。そのオン・ザ・ボーダーの精神が、スリリングな気分を高めていく。

彼らの「運命の出会い」はじつは偶然ですらない。そして四人は、自分たちがのし上がるためにベンジャミンの秘密を暴露した、という後ろめたさに付きまとわれなければならない。始まりにおいても、そしてこれからも、彼らに安住の地はない。この先彼らはどうなるのか。目が離せないドラマが始まった。